離婚はしたいが…

藤川 明典

 「愛人のいる夫が最近、しつこく離婚を迫るんです」と来年定年になる大手証券会社員の妻。悔しそうな口ぶりだ。夫はこのひと月、十年来のつきあいの、その女性の家から通勤している。「夫婦生活もないし、私だって離婚は望むところ。でもね……」
 聞けば、夫の財産は退職金や月二十万円ほどの年金だけ。でも、「財産分与はしない。百万円払うから家を借りろ」とにべもない。友人も「年金も退職金も旦那のだから、もらえない」という。「このまま家を追い出されたら」と不安だ。「今まで信じてついてきた妻に、あんまりですよね」
 職場結婚だった。勤め続けていれば、年金だってついたはず。「せめて、その年金分はほしいわ」。亭主元気で留守がいい――CMじゃないが、生活費さえ入れてくれるなら今のままでいい、と思うときも。心中は複雑のようだ。いやな思いをしながらも、生活費や将来のことを思ってがまんしてきたのだろう。
 離婚に伴う財産分与は、現在の夫婦財産を半分にすることだが、それだけではない。離婚しなければ夫の年金で生活できるし、夫が死ねば遺族年金で老後も保障される。これを夫の都合で一方的に奪うのは許されない。将来の生活保障的な意味の財産分与も認めるのが公平だ。彼女のいうような、勤め続けていたら入るはずの年金相当分を受け取ることはできないが、夫の年金の一定の割合、あるいは相当額は財産分与と認められていいだろう。
 夫が定年まで勤められたのも妻の協力のおかげ。その結果、夫が受け取る年金や退職金の半分ぐらいは、妻がもらってもいいと思う。しかし、裁判所はなかなか認めてはくれない。半分を基準に交渉し、ある程度のところで妥協するか、いやなら、調停裁判の道を選ぶことになる。一九九七年一月二十二日の横浜地裁判決は、退職金の半分を財産分与として認め、そのほか毎月十五万円の扶養的財産分与を認めている。交渉してみる価値はあるだろう。
 「でも、夫の離婚請求が認められる場合だってありますよ」というと、彼女の表情が一瞬曇ったが、「人生を前向きに考えて解決し、再出発しましょう。その方が、精神的に平穏になれますよ」と励ました。希望をもちましょう。

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